機能はMoatにならない - 複数の困難な条件を揃えること
May 1, 2020
良かった。Moatをいくつか作るとかごもっともなんだけど、これを考えないといけなくなる時にだいたい作りたいプロダクトへの気持ちが枯れていくので、起業をしたいと思う直接的な理由を見つけることが難しい。
好きなMoatは「社外の良い開発者たちを味方につける」こと。今回の文脈において、これは複数のMoatを内包し得ると思う。Stripeは最初からそれを芯にもっていて、既存のPayPalがうまくなかった部分からうまく攻めていっている。慌てて似たようなBraintreeを買うも、取ってつけたようなものでは長続きしなくて、Stripeがやってきた端々の気遣いは模倣の域ではどうにかならないのに気づいているはず。逆にPayPal単純にユーザ数がMoatになっているVenmoの買収は大成功で、他が崩せない堀を維持できている。
日本から(厳密にはアメリカだけれど)そのMoatを持つ、最も成功した例はおそらくTreasure Dataで、fluentdをはじめ良いソフトウェアを外に出し続けていたことは確実に質の良い開発者を早々に味方につけて、製品の導入、採用、保有するソフトウェア自体の成長に寄与している。
StripeのそのMoatをよく感じ取っていて、WebPayという会社を回していた頃に大事にしていたそれは初期の大事なサービス成長のほとんどはそこに根ざしていたといえる。手数料、導入障壁の解消など他の要素ももちろん重要であったけれど、安くて良いものを多くの人に見せるだけでは成り立たなかった。会社が買われて外目にはそのMoatが無くなることが危惧されるようなときに、多くの悔やむ声を見つけた時に気付かされた。それを選んだのも会社自身なのだが、どうも買う側が悪者であるかのような。
ところで決済ビジネスはスタートして世に出したころで、それ自体が結構なMoatになる。社会の規制やルールを通り抜けたプロダクトを出すだけでひとつ越えたことになるので、対戦相手がぐっと絞られる。もっとうまく出来るんじゃないかとカード周辺のあれこれがわかる専門家ぶってリリースされた頃からKyashという会社を観測していたのだけど、この数年でうまく良い形をつくっているのを見るに、リリース当初に彼らがまず越えたMoatを軽視したのだなあと最近になって恥ずかしく感じた。